成田のセキュリティは未だかつて見たこと無いほどの大混雑。
GWや年末年始でさえこんなに混んだことはないのに、たかが4連休でどうしてなんだろう。
景気がよくなったという話は聞かないけど、、、
あ、そうか、学生が休みに入ったのか。
イミグレも入りきれないくらい人で溢れかえっているけど、いつものように箱崎で出国してきたので脇をするりとパス。
リムジンバスは\2,900とちょっと高めだけど、出国手続きが事前にできてしまうので混んでいる時期は特にメリットが大きい。
もっとも裏技を使えば京成とかの電車賃でもそれができてしまうのだけど、、、
JL717がドンムアンに到着したのは16時ちょうどだった。
早いときは15:30くらいに着いたような気がするがやっぱり冬だからだろう。
予約が入っているTG641便プーケット行きは16:30発。
この便は半分以上の確率で12番ゲートに到着するけど、今回は運悪くバスゲート。
乗り継ぎはちょっと無理っぽいなぁ、と思いながらもだめもとでトランジットカウンターに向かう。
「TG641なんだけど間に合う？」とチケットを差し出す。
確か国内線のカウンタークローズは30分前だったよなぁ。
「OK、チケット見せて」とおねぇさん。
おっ、ちょっとは期待がもてるか。
ところが、端末をたたいたあとで時計に目をやりながら『もうクローズよ』。
やっぱり間に合わなかった。
「じゃ、次の便でもいいんだけど」
カタカタとキーボードをたたく。
「次の便はフルね」
さらにキーボードをたたいて出てきたのは、ほぼ2時間後のTG221便18:20発。
あ〜あ、こんなことなら最初から一つ後の便を予約しておくんだった。
20時前にやっとプーケットに到着。あたりはすっかり真っ暗。
乗り遅れていなければ夕日が見えたかもしれないのに、、、ちっ。
空港にはOne Worldの修行の時に乗ったことのあるFin Airの機体が翼を休めている。
いかにも白人向けのリゾート、プーケットだ。
インドのゴアのようにここにもヨーロッパからチャーター便が飛んできてるんだろうか。
こじんまりとしていながらもきれいな空港ターミナルは国内線・国際線共用。
国内線としてきた乗客はDomestic Passengerの方へ進み、国際線扱いでやってきた乗客はInternational Passengerの方へ向かう。
でも、これってInternationalと書かれた胸のシールがなけりゃドメの方にもいけるよなぁ。
ということは不法入国ができてしまうわけかぁ。してもしょうがないけど。
空港の代理店でホテルを予約し、ミニバスでパトンに着いたときにはすでに9時を回っていた。
Paton Villa。
プールを挟んで左手に2階建ての宿泊棟、右手にはコテージ。
外見はなかなかしゃれているが、室内はいかにもタイ資本の中級ホテル。
設備は一通りそれっているし広さも不満のないレベルだけど、全体的にくたびれている。
バンコクだとアンバサダークラスか。
でもプーケットの物価とトップシーズンであることを考慮すると1900THBは妥当なところかもしれない。
カーテンを開けると真っ青な空が広がっている。やっぱりリゾートはこうじゃなくちゃ。
ビーチの正装である、Tシャツ・海パン・サンダル姿でさっそくビーチに向かう。
ホテルからは歩いて5分足らず。
薄暗いモールを抜けると目を刺すほどの真っ白な砂浜にカラフルなパラソルがひしめき合っている。
海はエメラルドグリーン、空は真っ青。
まるでTubeのジャケット写真のよう。
ビーチチェアを確保し、Tシャツを脱いで横になる。
休み明けに会社でばれないように日焼け止めを塗っておかなくちゃ。
デイバッグからサングラスと文庫本を取り出す。
あとは冷えたビールがあれば完璧だ。
ビーチにはいろんな売り子がやってくる。
売っているものは飲み物、食べ物、置き物、CD、布地などさまざまだ。
飲食物はいいとして、なぜこんなところでわざわざCDを売っているのかわからないけど、たぶん需要があるんだろう。
まずはビールをゲットしてから売り子のおばちゃんにガイヤーンを買ってきてもらう。
竹串を二つに裂いてその間にちょっとやせた手羽肉が挟まっている、イサーンやラオスでよく見かけるタイプだ。
一口だけ齧りサイドテーブルに置いてちょっと目を離しているとなにやらガサゴソという音。
ふっと振り向くと、いままさに野良犬がくわえて持っていこうとするところ。
「あっ、このやろ〜」
どなりつけるとガイヤーンをくわえたまま上目遣いにこっちをじーっと見ている。
せっかく買ったガイヤーンを取られてたまるか。
ガイヤーンの串を引っ張る。
相手もせっかく見つけた餌を離してなるものかとなかなかあきらめない。
しばしの間、犬との引っ張り合いになる。
「はなせ、こいつ〜」
周りからは何事が起きたのかと視線が集まりちょっと恥ずかしい。(^_^;)
凶暴な犬ならきっと噛みついてくるのだろうけど、気の弱そうな顔をしたやせた中型のメス犬。
タイのことだから、きっと普段は飼い主に腹いせに蹴られたりしているんだろう。
明らかに人間に対してびくついているのが見て取れる。
よし、この勝負もらった！
えいっ、と力任せに引っ張るとさすがにこいつもあきらめた。
（ま、それでもいつまでも恨めしそうに見ていてかわいそうだったなので食いカスはやったが）
ビーチパラソルのもとでうとうとしていたら、なにやら話し声で目が覚めた。
「ハウマッチ・キロ？」
日に焼けて皺だらけの物売りのおっさんが休憩がてら隣の超デブ3人組に話しかけている。
おっさんの英語も英語だが、連中は全く意味を解さなかったらしく、きょとんとしている。
このグループの向こう側に陣取っているこれまた白人3人組が
「体重だよ、何キロあるのか聞いているんだ。俺は80キロだけど」
これでやっと解ったらしく「○※▲◇」とよくわからない言葉で応えながら指を一本立てている。
「100キロ？」とタイ人のおっさん。おそらくおっさんの倍くらいだろう。
ちょっと目を離して本に没頭しているとそのうちにその3人組が
「スパゲッティ、マカロニ、ピッザー」と冗談のようにはしゃいでいる。
そうか、こいつらイタリア人なのか。
3人組の中でも唯一体型がふつうのおっさんはなぜか声高らかにアベマリアを歌い始めている。
これがなかなかの美声。これで何人たぶらかしたんだ、おっさん。
たぶん全員50過ぎだと思えるのにやけに明るい。
これがラテン系ののりなのかぁ。
日本人だったらたぶん『分別がない』と思われてしまうのだろうけど。
昼過ぎ。
それまで晴れ渡っていた沖合の空がだんだん濃い灰色の雲に覆われ始めた。
そしてその雲がどんどんこちらに向かってくる。
すでに見えてる範囲内でもその雲の下はかすみ、スコールが降っていることがよくわかる。
「フォン・トック」
ビーチチェア係りのにいちゃんが目が合うなり口にした。
ここまで来るのにあとどれくらいだろう。10分くらい？
まわりにいた白人連中はぱらぱらと引き上げていく。
上空を見上げるとここもすでに灰色の雲がびっしりだ。
風も強くなってきたしそろそろやばいな。
荷物をまとめ始めるやいなや、ポツッ、ポツッと日本の雨の3倍はありそうな大粒のやつがとうとう落ちてきた。
とたんに土砂降り。典型的なスコールだ。
たまらず裏手のレストハウスに避難。
時計を見るともう12時半。そろそろ宿に引き上げよう。
ミニバスを予約するのも億劫だったので、通りでトゥクトゥクをつかまえる。
空港まで400THB。
「タイ語ができるのかい？」
「うん、ちょっとね。ゆっくり話してもらえればわかるよ」
「プーケットは初めてか？」
「いや違うよ。3,4回目かな」
「そうか、プーケットはいいところだろう」
「そうだね、海がきれいだし」
「おれは10年前にバンコクから移ってきてタクシーをやってるんだ。バンコクは車が多くて渋滞するからパトンから空港までの距離があったら2,3時間かかってしまうだろ。それに排気ガスが多くて臭いし」
「そうだ、そうだ」
「ほら、ここは海も山も田圃もある。俺は気に入ってるんだ」
ヘンドゥアイ、チンチン。
旅行者がやってくるから仕事はあるし、それでいて自然もまだちゃんとしている。
生活するにはバランスがよくていいところかもしれない。
居ついてしまう日本人がいるのも頷ける。
パトンの街をはずれて山道にさしかかると対向車線を警察の車両が数台やってきた。
「泥棒だよ。4人捕まった」
なんで見ただけでそんなことがわかるんだ。
もしかして彼はこうは見えても警察の裏事情に詳しく、トゥクトゥクの運転手というのは隠れ蓑で実は暗黒界のボスだったりするのかもしれない。
見た目はいい奴っぽいんだけど、バンコクからプーケットにやってきたのは実はやばいことをやって警察か組織に追われているじゃないだろうか。
人も何人か殺していたりして、、、、
なんてことはなく、きっと噂にでもなってたんだろう。
「パトンは泥棒が多いからな」
ふ〜ん、やっぱり人が集まるところには泥棒にとってもいい仕事場なんだろうな。
「ところで、タイは他にどこに行ったことがある？」
「う〜ん、バンコクだろ、アユタヤ、カンチャナブリー、コ・サメット、、、」
「コ・サムイ、コ・ピピは行ったことあるかい？きれいだぞ」
「行ったこと無いな」
「今度来るときには行くといいよ。俺は行ったこと無いけど」
おいおい、行ったこと無いのかい。
「あとはどこに行ったことある？チェンマイは？」
「うん、あるよ。それとチェンマイ、チェーンセン、チェンライ、メーホンソーン、ウボン・ラチャターニ、メーサローン、ノーンカイ」
「ノーンカイにも行ったことあるのか？」
「うん、2回行ったよ。ラオスに行ったときにね。それで帰りがけにウボンにも行った」
「いったい、何回タイに来てるんだい？」
「たぶん25回くらいかな」
「えっ、25回？他の国には行かないの？」
「他の国にも行くけど、特にタイが好きなんだ」
ダッシュボードにミニカーが3台置いてある。
「おれは車が好きなんだ。これは子供用だけど」
「あんた、どこから来たんだい？」
「日本だよ」
「日本か、本田はきれいだよな。女みたいで」ちょっとにやにやしながら運ちゃん。
「タイでは本田は女に人気があってトヨタは男に人気があるんだ」
「日本で一番大きな自動車会社はトヨタで二番目が本田だよ」
「日産は？」
「日産はその次」
「マツダは？」
「マツダはもっと下だね」
「マツダの車は馬力が少ないんだ。トラックならいすゞがいいね。馬力があって」
空港までず〜っとしゃべりっぱなしの話好きな運ちゃんであった。